ポナン エクスプローラー|南極クルーズ
彼女は10年前に言った
「ペンギンが見たいの」
じゃあ来週、動物園に行こうか。
「そうじゃなくて、本当のペンギンを見に行きたいの」それは、妻との10年前の会話だった。銀婚式を迎える年になって何か贈り物を考えていた時にふと、昔の話を思い出していた。
とは言っても、そんな白銀の世界に…、南極観測隊のような重装備で、そんな最果ての地に行くほど二人とも体力も、冒険心もあるわけではない。
そんな夢のような話をしてもしょうがないので、南フランスの田舎でワイン畑に泊まる旅行でも行こうかと思っていた。
数日後に送られてきたパンフレットを見て驚いた。
漁船どころか、今風に洒落たホテルのような作り。こんな恰好いい船が南極行って大丈夫なのか…と思った。氷が当たったら壊れるんじゃないかと心配になった。
ユーロで書いてある値段を見ると、夫婦で行って、大衆車一台分くらいの値段。
妻に聞いてみると、「あら、覚えていてくれたんだ」と上機嫌になられてしまった。こいつはまずいと思いながら旧友に電話をして、安全性を確かめる。聞くほどに悪くない旅行だと思えて、ついつい南極まで夫婦で来て、浮かんでいる。